夕方、夫と連れ立って家の近くを散歩していたら山椒の木があった。野良の山椒だ。まだ若い葉を、被っていた帽子にいっぱいになるまで摘みいれたら手のひらが山椒の香りになった。手が山椒になったよ、と夫の鼻先に差し出すと、こっちの手も、と今度は私の鼻…
もう何年も前のことになるのだけど丸谷才一の「笹まくら」を読んだ。すばらしい小説で、読んでいるときはもちろん、その後もずっとその物語が自分から離れていかないような感覚がある。物語は戦中、徴兵から逃げた男の話だ。赤紙が来たその夜に家を抜け出し…
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