ものの言いかた


犬は餌をチラつかせとけばいいので簡単です(おやつをガン見する犬)


壊れやすいものを扱うお店に勤めているのだけど、「小さい子どもを連れたお母さん」がけっこうきます。子どもはもちろんうつわにはなんの興味もないから、入って1分も経たないうちに飽きて帰りたがるか、店のなかを遊び場にしようとするかして、パタパタと走り回ったり並んでいる作品を手に取ろうとしたりします。

中には1つ数万円もするようなものも置いてあるので、お母さん方は必死で子どもをおとなしくさせようとするのですが、たいていの場合それはあまりうまくいきません。

ほとんどのお母さんは子どもに向かって「触っちゃだめよー」「走らないでー」と言って手をつなぐのだけど、効果はほとんどないかあってもほんの1、2分の話で、しばらくするとうつわに向かっているお母さんの興味関心を取り戻そうと奇声を発したり足にまとわりついたりして結局お母さんはゆっくりうつわを見られないままお店をあとにします。


そんな中、先日店に入って数秒で飽きて走り出そうとした子どもに向かって「抜き足…?」と言ったお母さんがいました。

その瞬間、子どもは挙げた足をぴたりととめ、そーっと床におろし「差し足…!」と応えて、そのあとしばらく「抜き足、差し足、忍び足」といいながら、牛歩戦術よろしくゆーっくりゆーっくりと店の中を歩き始めました。お母さんは「おっ、わかってるじゃん!」と言ったあと、時折子どもの動きを確かめ「今のちょっと早かったんじゃない?」とか「そんなんじゃ見つかっちゃうよー」とか適当に声をかけつつうつわを選んでいました。

ユーモアがあってエレガント。素敵なお母さんだと思いました。

子どもに限らず人になにかをしてもらいたいときに(あるいはしてほしくないときに)、どう伝えるかはけっこう難しくて、わたしはけっこう言葉尻がきついというか雑にものをいうほうなので、度々人を傷つけたり火に油を注ぐ結果になったりしてきました。だから、こういう賢しい人を見るといいなぁと思うし、なるほどねーと感心します。とりあえずこの出来事も心にメモメモ。



おまけ。祖母がかける掃除機を恐がってベランダに避難する犬