郡上おどり


「秋はさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」


先日、秋の気配が混じった風がさっと頬を撫でたときに、藤原敏行の句を思い出した。


ということで、夏と秋のひとつの境界であるお盆に、郡上八幡に行ってきた。目当てはただひとつ「郡上おどり」。
郡上おどりは7月中旬〜9月上旬まで行われる日本一ロングランな盆踊りで、盂蘭盆の8月13〜16日の4夜、20時から翌5時まで踊り続ける「徹夜おどり」が行われる。

「徹夜おどり」の名を知ったのはもう10年以上も前のこと。ずっと行きたいなぁと思っていたのだけど、6月のある日、お昼ごはんを食べていたら急に「行きたいなぁじゃなくて、行くし!」という気分になって、すぐにiPhone郡上八幡の宿を検索し、一緒に行く人も決まっていないのにとりあえず2人分の宿を押さえた。
行きたいところには行くし、やりたいことはやる。そんな気分だったのだと思う。その時は。


で、はじめて見た郡上おどりは、すごかった。
盆踊りがこんなにトランシーなものとはついぞ思わなかった。これが噂に聞く「同じアホなら踊らにゃ損」の現場か…という感じ。というか、ここに来て踊らないとか無理無理。

缶ビールを1本開ける間さえもどかしく、ぐっとあおって輪に加わる。見よう見まねで踊るうちに、体がコツをつかんで、動きと音があってきて、隣の人に腕が当たらなくなってくる。
少し余裕が出てきて周りを見渡すと、踊り会場の中心に立ったやぐらを囲むように数千人。右を見ても左を見ても、高揚した顔しか見えない。立ち込める熱気と汗の匂いの中、音頭に合わせて皆が一斉に腕を振り上げては手拍子や下駄を鳴らしている。この景色を小高い場所から見下ろしたら、さぞ壮観だろうと思った。

結局、休憩をはさみながら膝が笑うまで3時間踊り倒して宿に戻った。あまり乗り気でなかったはずの友人は、帰りのタクシーの中で「来年の宿、とってから帰る?」なんて言っていた。




翌日は、吉田川にかかる新橋に行って元気な男の子たちの飛び込みを見た。ギャラリーも多く、誰かが飛び込むとひゅーと歓声があがる。欄干では水着姿の男の子数人が下を覗き込みながら、次お前行けよ、やだよお前先に行けよ、なんてつつき合っていた。かと思うと、少し遠くのほうにいる同級生らしい女の子グループとチラチラと視線を交わしあっている。あぁ、なんて男の子。完璧な思春期の夏休み。楽しそうだったなぁ。


そういえば、郡上おどりの会場には若くてイキのよさそうな(やんちゃそうな)男の子たちがたくさんいたけれど、祭の会場にしてはぜんぜん荒れてなかった。なんとなく、踊り会場ではやんちゃぶって騒いで目立つよりも、うまく踊れるほうが目立つしかっこいいからなんじゃないかと思ったけど、どうなのだろう。

とりあえずまた来年もここに来たいなぁと思った。